誰しも高齢者になっても、毎日元気に健康で暮らしたいと思っています。
寝たきりになったり、歩けなくなったり、トイレにも自力で行きたい、毎食季節の美味しい食べ物を自分で食べたいものです。ご家族も、できるだけ親御さんに元気で長生きしてもらいたいものです。
しかし、老化というものは誰にでも訪れ、今まで当たり前にできたことが徐々にできなくなってしまうものです。いつまでも元気に生きていくために、最近注目されているのが「介護予防」という考え方です。
できるだけ効果的な運動を知ることで、安心できる老後を過ごせるよう、ご家族の方が是非、介護予防に効果的な運動を知って一緒に楽しく取り組んでいきましょう。
このページの目次
ひとりひとりにあった運動を
体力はひとそれぞれ違ってくるため、介護予防の運動も一人一人プログラムが違ってきます。
その人に適した運動を毎日することで、頭や体、心の老化をできるだけ遅らせたり、逆に今よりも運動機能が上がり、体が若返るということが報告されています。
体は運動して鍛えた分だけそれなりの結果を出してくれます。「若いときから運動なんてしたことないから・・」と敬遠する必要はありません。運動が初めての方でも、どちらかというと苦手であるという人も、何歳からでも正しい方法で取り組めば見違えるような効果があらわれます。
効果が徐々に表れているのを自分で実感すると、また運動もどんどん楽しくなります。
体を動かすことは楽しいことですし、楽しいと心も健康になります。しかし、一人一人現在の体の状態は違うのですから決して無理はいけません。無理せず、長く続けるということが大切です。
ご家族の方も親御さんの体の状態をよく理解した上で、無理のない運動が続けられるように優しくサポートしたり、声かけをしていきましょう。
運動することを不安がらない
親御さん自身が立つこと、座ること、歩くこと、トイレに行くこと、1人で出かけることなどに自信が持てなくて、家に引きこもりがちになっていませんか?
高齢になるとどうしても、外出中の転倒や事故のリスクは高まります。そのため、親御さんを心配するあまり「あまり出歩かないで」などと言ってしまうこともあると思います。あまりにも「出歩かないで」と言われ続けることで、高齢者の方自身が、どんどん外にでることが不安になってしまいます。
子供の立場から考えるとできるだけ家でじっとしてもらっている方が安心です。しかし、怪我のリスクは減っても、家でじっとしていることで運動能力が著しく下がり、運動面での老化が大きく進んでしまいます。
本人もご家族も心配だという気持ちは理解できますが、今できる運動機能をできるだけ維持、向上させるという意味では不安ばかりしているよりは、できることから取り組む姿勢が大切です。
どうしても外出してもらうのが不安であるならば、家の中の限られたスペースでもできる運動もありますのでゆっくり取り組みましょう。
体の状態を知ることが大切
介護予防の運動をするにあたっては、高齢者の体の状態を知ることが大切です。それによって運動をするかしないのか、どの運動をどれくらいすればいいのかということ決める目安になります。
特に、骨折のリスク、発作などのリスクは避けなければいけませんので、最近の状態、運動する時の状態をチェックする必要があります。普段から循環器系の疾患がある場合などは血圧測定をしてから運動しましょう。脈拍などが取れるので血圧測定器があると便利です。
他にも、熱があったり、いつもよりだるそうにしていたり、食欲がない、また下痢などの症状などがあったり、いつもより身体のどこかに痛みがある場合などは運動を中止しましょう。
客観的に家族がその日の高齢者の状態を見ることができるとより安心できます。その為にも普段の様子を良く知っておくことが大切です。
医師や専門のスタッフの助けが要る方
介護予防の運動が大切とはいえ、自己管理だけで運動を続けない方が良い場合もありますので、以下を確認してみましょう。
ひとつでも当てはまる場合は、必ず医師の判断を仰いでから運動を行なうようにしましょう。
介護予防に効果的な体操や運動
「老化は足から」とよく言われますが、介護予防の運動で一番重要なことは「足」を鍛えることです。足の筋肉や関節を意識しながらトレーニングすると運動効果があがります。
高齢者の介護予防運動は大きく「ストレッチ」「筋肉トレーニング」「バランス・歩行トレーニング」という3つに分かれます。
これらを組み合わせて行うことで効果的な介護予防運動になります。ここでは誰でも簡単に運動が続けられるように、椅子に座った姿勢でも行える運動を挙げておきましょう。この運動は、いつまでも歩行できることを目指して構成されています。
これからご紹介する運動は、できる人にとってみれば全く問題なくできるプログラムですが、歩くことがだんだん困難になりつつある高齢者には非常に大切な運動です。初めは全ての運動を行うのは大変ですので、少しずつ運動を多くしていきましょう。
また、一気にこのプログラムを行うと疲労もたまりやすいので、疲れたら休むというふうに工夫して行いましょう。
深呼吸
・椅子に座ります
・息をゆっくり吸いながら両手を広げます
・ゆっくり息を吐きながら両手をもとの位置に戻します。
・これを3回繰り返しましょう。
・鼻からゆっくり息を吸います
・口をすぼめてゆっくり息を吐きましょう。
・これを3回繰り返します。
・両手をお腹にあてます。
・鼻からゆっくり息を吸います(この時お腹を膨らませるようにする)
・口からゆっくり息を吐きます(お腹がへこみます)
・腹式呼吸を3回繰り返します。
上半身の体操や運動
手首のストレッチ1
・肩の力を抜いて横に手を下ろします。
・そのまま手首をくるくる回転させましょう。
・10回繰り返します。
手首のストレッチ2
・両腕をまっすぐ前に伸ばし、手のひらを下に向けます。
・手首を外側に曲げます。(指先が上を向く)
・次は内側に曲げます。(指先が下を向く)
・これを10回繰り返します。
肩のストレッチ
・両肩をぐんと持ち上げて、ストンと落とします。
・これを10回繰り返します。
肩と肩甲骨のストレッチ
・右手の指先で右肩、左手の指先で左肩に軽く触れます。
・肩甲骨が大きく動くのを感じながら、両肘を大きく円を描くように回します。
・前、後ろ10回ずつ繰り返します。
肩と肩甲骨のストレッチ2
・手のひらを上にして、ワキを締めて両手を前に出します
・胸を張り、左右の肩甲骨を寄せるようにして両手を広げます。
・これを10回ほど繰り返します。
背骨・背筋の運動
☆両手を腰にあてて、力を抜いて腰を左右に揺らします。これを30秒ほど続けます。
・タオル一枚用意します。
・両手でタオルの端を持ち両手を伸ばしたまま、胸の高さまで持ち上げます
・タオルを持った両手を足元までおろし、そのまま10秒止まります
・また両手を胸の高さに戻します
・今度は両手を頭の上で伸ばしで腰や背筋を伸ばしながら10秒ほど止まります。
・タイルを両手に持ち両手を伸ばしたまま胸の高さまで上げます
・そのまま横にひねり10秒ほど静止します
・ゆっくり元に戻します。
・反対側も同じようにします。
・横に下ろした手を交互に前後に振ります。
・それぞれ20回ほど行います。(胸を張り、体をひねることを意識しましょう。)
下半身の体操や運動
・座ったままで、片方の足をもう片方の足の上に乗せます
・足の指と足首を手で持って足首をくるくる10回ほど回します
・反対側も10回ほど回します。
・両足の指を広げたりしぼめたりを10回ほど繰り返します。
・両足、かかとをそろえます
・両方のつま先をあげます
・一度元に戻して、今度は両方のかかとを上げます。
・これを5回ほど繰り返します。
・座ったまま足を肩幅に広げます
・足のつま先をあげて、手と足の指を広げて前に出します
・ゆっくり手と足の指を閉じます。
・これを10回ほど繰り返します。
・椅子をしっかり持ちながら両足を前に伸ばして出します
・かかとの場所を変えずにつま先を外側にしたり、内側にしたりします。
・これを10回ほど繰り返します。
・椅子をしっかり持ち、かかとを膝をくっつけます
・かかとをつけたまま、膝を開きます
・膝を元に戻します。
・これを10回ほど繰り返します。
・片方の膝を伸ばしかかとを床につけます。
・両手は足の付け根におきます
・ゆっくり上半身を前に倒して10秒ほど静止します。
・反対側も同じようにします。
・椅子をしっかり持ちながら、両方の膝を合わし、足をそろえて座ります
・片膝を伸ばし、足を水平の高さに10秒保ちます
・元に戻して、反対側の足も同じように行います。
・これを10回ほど繰り返します。
歩行トレーニング
・椅子から立ちあがって深く深呼吸します。
・両手を広げてゆっくり息を吸い、両手を戻しながらゆっくり息を吐きます
・これを3回繰り返しましょう
・椅子に浅く腰掛けます
・片足を椅子から下ろして足を前後に開きます。
・そのままのばして10秒止まります
・反対側も同じようにします。(足のももから付け根にかけてしっかりのばすことを意識しましょう。)
・背筋を伸ばしてその場で立ちましょう。背中が曲がらないように意識します。
・その場で手を軽く振りながら、ゆっくり足ふみします。
・20回ほどあしふみを繰り返します。
・壁や椅子を片手でもって、安全に行います
・膝を曲げて、片足を腰の位置まで挙げて5秒止まります。
・反対側も行います。
・片足を腰の位置まで持ってきて、その足と反対側の手で膝に触り3秒間止まります
・反対側も行います。
・足をそろえて立ちます
・片足を一歩前に踏み出し、その足に体重をかけます
・反対側も行います。
・左右10回ほど繰り返します。
体調や体の痛みなどはそれぞれ違いますので、できないことは無理せず、できる範囲でかまいません。
全く運動をしてこなかった人は、これらの運動を半年ほどかけてできるように心がけましょう。
1人ではどうしても続けることが面倒になってしまいがちですので、家族の人も運動不足解消という気持ちで一緒に取り組んだり、市町村が行う介護予防の運動講習会やスポーツクラブなどでも、介護予防の知識をもった専門スタッフを置いてメニューを提案しているところもたくさんありますので利用してみましょう。
いつも一緒の体操や運動ではどうしてもマンネリ化して面白くなくなるので、場所を変えたり、運動を変えたり、メンバーを変えたりして工夫しましょう。
介護予防に効果的なその他の運動
ストレッチや筋肉トレーニング、バランスなどを鍛えるために、「ヨガ」も効果的です。ヨガは全身の柔軟性を高めたり、体のゆがみを補正する要素もあります。
また、血液の循環やリンパの流れを良くしたり、基礎代謝も上げます。精神を集中することによって脳を活性化させたり、末梢神経の改善など良いことがたくさんあります。
ゆっくりとした動きも高齢者向きですし、普段意識しない呼吸や体の内面に意識を向けるということは精神的にも効果があるといえます。しかし、なかなか素人では意識して集中することができないので、なるべく専門家の指導の下に運動を行いましょう。
運動の強さ
運動の強さは弱すぎても効果がありませんし、強すぎても身体に負担がかかって逆効果です。理想としては運動することによって、ちょっときついと感じる程度が適切です。
しかし、最初からややきつい運動をすると長続きしませんし、体が対応できませんので、最初は楽に感じるくらいから徐々に程度を上げていきましょう。
運動中に気をつけること
運動中に気分が悪くなったり、体調不良が感じられる場合は直ちに運動をやめましょう。しばらく休憩して体調がもどれば問題ありませんが、体調が回復しないようであればできるだけ早く専門医を受診しましょう。
運動中は、汗をかき脱水症状になりやすいので小まめに水分補給するようにします。また、その運動に適した姿勢を保つことは大切です。間違った認識で運動を続けると思わぬ箇所の筋肉疲労があります。
また疲れたら適度に休憩を取りましょう。家族の人は高齢者の顔色、表情、汗の状態をチェックしたり、呼吸が荒くなっていないかなどに充分注意しましょう。
運動を続けるちょっとした工夫
今まであまり運動に縁のなかった高齢者が運動を習慣化するというのは非常に難しいです。
高齢者本人がやる気になって運動を続けるためには、本人はもとより家族のちょっとした工夫も大切です。
いくら高齢になっても人間はみな他人から認められたい、褒められたいものです。ですから、本人が自身を持つように声かけしてみましょう。
例えば、一週間続いたことに対しては、「お父さん、すごいわねー。よく続けられたねー」と言ってみたり、少しでも変化があると、「歩くの早くなったねー。」「長い距離歩いたねー。」「足に筋肉ついてきたみたいよ。」とさりげなく褒めてみましょう。
高齢者自身が自信をもつということが大切です。