高齢者は生活環境の変化や体力の衰え、自分の健康状態の悪化や配偶者との死別など様々なストレスがあります。そのストレスが強くかかると老人性のうつ病になる場合があります。
うつ病は早期発見して適切に治療をすることで回復する病気です。しかし、高齢者のうつ病は本人が我慢したり、周りも分かりづらいので発見が遅れてしまったり、見過ごされるパターンが多くあります。
高齢者の異変に周りが早く気づいて適切な対応をとりたいものです。
また、うつ病になる前に習慣的にうつ予防を心がけておくと、うつ病になりにくくなります。現代社会において老人性うつ病は社会問題です。特に高齢者と一緒に住む家族は、注意を払う必要があります。
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高齢者のうつ病
うつ病と聞くと、仕事に疲れたサラリーマンが発症するものだというイメージがありませんか?
うつ病の発症者も実際、30代から40代くらいの人が多いのですが、その中の5パーセントほどは老人性のうつ病です。高齢化社会を迎える日本はこの老人性のうつ病患者が確実に増えるとされています。
老人性のうつは、若い人がかかるうつ病とは少しタイプが違います。そして、その症状はよくある高齢者の特徴でもあるので、なかなかうつ病からくる症状であることが見落とされます。
うつ病は、早期発見できずに放置すると症状はひどくなりますし、一旦かかってしまうと、せっかく治っても再発しやすい特徴があります。
高齢者が自分自身でうつ病であることを気づくのは非常に難しいので、同居する家族などはちょっとしたサインを見過ごさないように高齢者と日頃から接しておきましょう。
精神医学的見地から見ると、老人性うつ病に厳格な定義はありませんが、女性では閉経期である40歳から60歳、男性では50歳から65歳から発症する人が増えてきます。
老人性うつ病の症状
以下の症状が高齢者に見られる場合は、うつを疑ったほうがよいので、出来るだけ早く主治医に相談するか専門医を受診しましょう。
- 常に何かの不安に苛まれている
- 突然やる気がなくなり、趣味などにも興味がなくなる
- 食欲がなく、体重が減少してくる
- 寝つきが悪い、眠りが浅い、朝早く目覚める
- ちょっとしたことでどっと疲労感が出る
- 原因の分からない体調不良が続いたり、なんとなく疲れる
- 実際には問題がないが体に不調が見られる
- 実際には貧困でないのにお金がないと訴える
- 考える力の低下でぼけたように見える
- 死にたい、死にたいと訴える
- 身体的不調がある(頭痛、めまいなど)
- 自分に自身がない
- 以前に比べて口数が減った
- イライラしたり、泣き出したり、情緒不安定な感じがある
- お酒の量が増えた
家族など、周りがうつではないかと極端に心配していることを感じると高齢者が我慢しだしたり、症状を否定する場合があります。
おかしいな?と思ったら、あまり騒がず何気なく検査してもらうなど家族も配慮が必要です。
老人性うつ病の原因
若年性のうつ病の原因はストレスや遺伝的要素、いわゆる内面的要因が大きいのですが、老人性うつ病の原因は反対に遺伝的要素が少なく、外面的要因が多いのが特徴です。
うつ病を起こす可能性のある身体疾患
- 本態性高血圧症
- 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)
- 胃潰瘍
- 糖尿病
- 慢性関節リュウマチ
- 甲状腺機能低下症
- 悪性腫瘍
- 潰瘍性大腸炎
- 慢性膵炎
- 脳動脈硬化
- 脳血管性痴呆
- パーキンソン病
- アルツハイマー型老年痴呆
- 慢性難治性疾患
- 各種の手術後
- ある種の薬物使用
これらの病気にかかった経験のある高齢者は、その後、うつ病を発症しやすいので家族や周りの人は高齢者の発言や様子をしっかり見守る必要があります。
また、身体疾患の症状としてうつ病が現れる場合もありますし、全く他の病気でも、病気になってしまったことが高齢者の心的ショックにつながりうつ状態になる場合も多くあります。
生活や環境的なものの原因
老人性うつ病の原因の根底には大切なものを失った喪失感が流れています。以下のような出来事が原因となりうつ病を発症させることもあります。
- 引退や定年に見られる役割の喪失
- 仕事や生きがいの喪失
- 多額の金銭の損失があった(詐欺にあったり、負債を抱えたりする)
- 今まで元気だと思っていたのに、疾患があると分かった
- 妻や夫、友人などとの死別
- かわいがっているペットとの死別
- 家族に対する不安
- 配偶者や家族がいなくなり、独り暮らしになる
- 引越しに伴い、突然環境が変ったり、コミュニティーがなくなった
客観的にみて、非常に大きな喪失感を味わうような出来事があった時は注意して見守る必要があります。
老人性うつの種類
老人性のうつにも種類があります。最終的には専門医を受診することが大切ですが、家族も高齢者の日常を見守りながら知識を持ちましょう。
これからご紹介する特徴をご家族の方が理解しておくことで、うつ病の早期発見にもつながります。
典型的うつの特徴
- 一日中、憂鬱な気分が続く
- 一日中、何にも興味が湧かず、喜べない
- 食欲がない
- やたらと食欲がある
- ひどく疲れ易い
- イライラする
- 自己嫌悪がひどい
- 自責の念に常にかられている
- 物事が考えられない、集中できない
- 眠れない
- 自殺したいと言う
仮面うつの特徴
- 耳鳴りがする
- 頭痛がする
- 腰が痛い
- だるい
心の不調が体の不調としてあらわれます。高齢者の場合、普段でもこのような症状がある人も多いですが、極端に不調になるのが特徴です。
躁(そう)うつ病
とてもハイテンションな時もあり、もう一方で極端に暗いときがあるといういわゆる躁うつ状態です。若い人のうつに良く見られますが、老人性のうつにも見られる場合があります。
焦燥(しょうそう)うつ病
常に強い不安に襲われ、妄想状態のようなタイプです。
うつ予防に効果的な9つの習慣
うつ病に対する予防は突然できるものではありません。理想としては高齢者になる前から生活習慣や考え方を少しずつ改善することがうつ病予防には効果的です。
うつ病は一旦発症してしまうと、治療をして一旦は治ったとしても、また再発する状態を繰り返します。高齢者は身体的な疾患を持つ人も多いのでうつ病も発症する前にできるだけならないように予防をして未然に防いであげたいものです。
若年性のうつ病でも老人性のうつ病でも最大の敵は「ストレス」です。現代社会においてストレスを全く感じないで生活している人は珍しいのではないでしょうか?
しかし、できるだけ心にストレスを抱えないように上手に生活習慣を変えるお手伝いをしてあげましょう。
若いときから老後に備えておく
60歳前後で定年を向かえ、ひと段落する人が多いのですが、仕事や家事から解放されて自身の時間をゆっくり持てるようになった時「何をしていこうか」ということをある程度若いときから考えておくことが大切です。
若い頃から続けているような趣味があればいいのですが、特に趣味がなかった人は高齢になってから「これをしたい!」という楽しみを見つける必要があります。よい生きがいを見つけられるように、家族で見守り声掛けをしてあげましょう。
どうしても趣味がない場合は、ボランティアなどが最適です。人の役にたって相手に喜ばれることは自己肯定のためにもいいことです。
また、特技のある方は、自治体などが運営しているシルバー人材登録などをしておくと仕事ができます。高齢者がやりたいことを持つことや、今まで培ってきたことを生かすことは喪失感を和らげてくれます。
家にこもらず、人とコミュニケーションをとる機会があることは精神上、非常に良い効果があります。
柔らかい考え方をもってもらう
高齢者の特徴ですが、今までの自分の考え方が全て正しいと人に押し付けたり、物事を決めてかかったり、頑固になることがあります。
人はそれぞれ個人の考え方のもとで生きているので色々な考え方や生活の仕方があるのだと認識してもらいましょう。そして、固くなった概念にとらわれず、できるだけ素直な気持ちで毎日を過ごすことが大切です。
日頃からコミュニケーションの機会を持ち、話すことがポイントになってきます。こういったことは高齢になればなるほど自覚しにくいものですし、実行しにくいものですので、出来るだけ若いうちから多様性のある生き方を模索することができた方が良いでしょう。
柔軟な気持ちでいてもらえば、若い世代の人たちとのコミュニケーションも容易になります。家族からも積極的にコミュニケーションを取るよう心がけましょう。
孤立しない人間関係を築かせる
家から一歩出ると、自分とは価値観が違う人だらけです。意見が合わないことから仲が悪くなるのは高齢者同士の人間関係でも良くあることです。
家の中でも、家族と色々なことでもめたり、考えを理解してもらえないことでストレスを感じることもあるでしょう。そういったときに高齢者だけの孤独な世界に引きこもらせないことが大切です。
良好な人間関係だけでなく、面白くない人間関係もあって当然です。高齢者と社会との繋がりを切ってしまうことなく、なるべく周りの人とより良い関係を築けるように家族もサポートしていきましょう。
家族の中で高齢者が孤立するような状況をできるだけ作らないように心がけることが大切です。
高齢者自身の時間をもたせる
社会とのコミュニケーションを持つのと同じく大切なのが、高齢者自身の時間を作ることです。
これは孤立する意味ではなく、ゆっくり自分を見つめ直したり、冷静になったり、自分だけの楽しい時間を過ごすことができることも必要だからです。
例えば、高齢者が体操教室に参加する日もあれば、ゆっくり家で一人、本を読んだりして過ごすように時間の使い方のバランスを考えてあげましょう。
感情の変化と家族のサポート
世の中には白黒はっきりさせたいけれど、はっきりしないようなことが多くあります。また、自分の力ではどうにも事態が上手くいかないことがあります。
高齢者はこんなときイライラして怒りっぽい態度を見せることがありますが、ストレスを溜めるよりも良い事ですので、ちょっと落ち着いてしばらく事態の流れを見守る家族の余裕が大切です。
高齢者自身も心に余裕ができれば、気持ちが段々落ち着いてきます。気分の変化で、怒ったり、クヨクヨ落ち込んだり、メソメソするのを見るのは家族として辛い事ではありますが、曖昧な時間に耐える力があるとうつ病になりにくくなります。
そのためにも高齢者の不安な気持ちを察知して、家族がじっと耐え、支えることが大切です。
高齢者が援助を申し出やすい環境を作る
高齢になると身体的に不自由な面が出てきて、ちょっとした身の回りのことも困難になってきます。これは当たり前のことです。できなくなったのならば、家族の人や介助してくれる人に代わりにしてもらう、助けて欲しいと援助を求めることが必要になります。
しかし、高齢者は他人や家族に頼ることを、迷惑になる、悪いことと考えて頼ることができない人が大勢います。できないことを無理に自分でしようとすると、怪我をしたり、我慢したりすることになり、そのことが二次的な被害へつながったり、孤立する原因になります。
困ったことがあれば人に助けを求めることができるにはある程度気持ちの訓練が必要です。そして、家族としては、高齢者が遠慮することなく気軽に援助を申し出ることのできる雰囲気や環境をさりげなく提供しましょう。
しかし、逆に、何でもかんでも人に頼ろうとする高齢者も問題になっています。擦り傷や筋肉痛などで救急車を呼んだり、中には寂しいからという理由で救急車を発動させてしまう高齢者も後をたちません。
どこまでが自分で出来る範囲で、どこからが家族や他人にお願いする範囲なのかをしっかり見極める力が高齢者に備わっていることも重要です。
過去にこだわらない気持ち
高齢者に多いのですが、過去の自分の栄光にいつまでもしがみついて、昔の自分をなかなか捨てられない人がいます。
たしかに過去の実績があることはいいことなのですが、いつまでも固執していると現在や未来に目が向きません。そうなると、周りの人とのコミュニケーションが難しくなっていきより孤立しやすくなります。
高齢者になっても向上心をもって未来を生きようとする明るい気持ちを持つことが生活に張り合いを持たせます。過去にこだわらず高齢者自身が新しい自分を発見する気持ちをイメージできる習慣も大切です。
家族は高齢者の話を充分に聞きながら、出来るだけ前向きな発想に転換できるように手助けしてあげましょう。
プライドを傷つけず、若い人に責任を譲るような流れを作る
高齢者は長い人生経験がありますので、若い人のやり方が頼りなく思えて、なかなか認めることができず安心して任せることができません。いつまでも現役で仕事できるような職種の人は尚更そのような状況に陥りやすいものです。
しかし、いずれ未来はこの若い世代が担っていくものですので、いつまでも高齢者が全てを抱え込まずに、人を信じて育てると気持ちに少しずつシフトしていけるように家族が流れを作ることが大切です。
最初は喪失感があるかもしれませんが、引継ぐことは非常に意味のあることです。徐々に引き継ぎが行われていけば、高齢者にも少しずつゆとりと時間ができ、自分を見つめ直す良い機会にもなります。
強引に高齢者の責任や仕事を取り上げると、高齢者のプライドを傷つけたり、反発を受けるので少しずつ家族が流れを作ってあげましょう。
老後を自然に受け入れられるようにする
不老不死はいつの世も人間の願いですが、現実には少しずつ老化していき、体力もどんどん落ちていきます。これは自然の摂理ですから当たり前のことですが、いざ自分の老化に気付くとなかなか正面から立ち向かえないものです。
人は徐々に老化していくことをしっかり認識して生活することを習慣にしていれば、極端な喪失感はなく自然に受け入れられます。
家族も少しずつ高齢者が老後を受け入れることが出来るよう、コミュニケーションを取っていきましょう。
うつ病かな?と思ったら
うつ病とはストレスが原因でかかる病気です。ストレスを感じやすい人は頑張り屋さんや非常に真面目な人が多いのです。
ですから家族の人は、ストレスを感じているな、ストレスを感じるような出来事だなと思うことがあれば、高齢者ができるだけゆっくりと過ごせるように工夫してみてください。家事などもある程度変わってあげる配慮も必要です。
高齢者ががんばり過ぎないようにサポートしてあげましょう。
うつのような症状になると家族も高齢者とコミュニケーションを取るのが大変になりますが、病気がそうさせている面もあるので優しく接しましょう。
うつ病の症状に心当たりがある場合、家族は出来るだけ早く専門医を受診するように促しましょう。
うつ病と認知症
老人性うつ症状は認知症の症状と似ていることから区別することが困難です。おかしいなと思ったら、主治医かもしくは精神科の医師に相談しましょう。
うつ病と認知症は似ていますが記憶障害検査などをすると区別がつきますし、抗うつ薬による治療を始めるとうつ病は改善していきます。